千影が見た風景 第2章 その5

 千影は泣き顔を隠すために石床に顔を摩り付けて涙を隠した。

 音も無く、ぼんやりと照らすランタンの灯りの下で堅い石床で何することもなくじっとしていた。鎖を外したとしても今度は扉を開けることもできない。今の自分ではドア一枚すら堅牢な壁なのだ。ふと思った。

 食事・・・・道具も使えない。あの男が口に食べ物を運んでくれるだろうか? 左右に首をふる。

「・・・・施しなど・・・・」

 口にしてもむなしい、残された方法、地べたに這いつくばって犬のように食うしかないのか・・・

 

 眠れるわけがない。長い時間、起きているのか寝ているのかはっきりしない意識でずっと横になっていた。感覚的に一晩はずっと横になっていたと千影は思った。天井の石の裂け目から光がこぼれて来て、夜が明けたのを知る。

「・・・・朝か・・・もう一日たったのか・・・」

 長いようで短い一日。昨日、そう一昨日は朝になれば兄くんがいてみんながいて・・・楽しげな毎日。懐かしさが込みあがって来る。あの掛け替えの無い毎日は帰ってこない。それは、みんなをこんな目に合わせるわけにいかない。自分で決めたじゃないか・・・。きっと耐えられる。わたしには・・・みんなと・・・兄くんがいるから。

 考えたら落ち着いた。そして、ほとんど同時にあの男の嫌な足音が聞こえた。

 尊大な態度で部屋の中に入ってくる。見ていれば子供向けの演劇のようにワザとらしく役者がかり見ていて滑稽に移るほどだ。千影はじっと力強い目で男をにらみ返した。昨日の一瞬でも怖気づいた自分に勇気を振り立たせるためにも目を反らすわけにいかない。

「おはよう・・・」

 千影の方から先に挨拶をした。

「ふん・・・」

 いろいろと言いたい事がありそうな顔をする。本当に感情が直ぐに顔に出る男だった。

「まぁいい。とりあえず食事だ。来い」

 鉄柱からフックを取り外して鎖を引く。

「ほら自分で歩け」

 そんな命令に千影はアゴを上げてじっと睨むだけで動きもしない。

「そうかい」

 一言だけ漏らしてハエは鎖を引いて千影を引きずりながら歩き出した。床に擦られ首に体重がかかる。四足で歩く屈辱と比べれば引きずられるぐらい何でも無かった。廊下の突き当たりに階段が上に続いている。

「これ以上傷物にすると楽しみが半減するな、おや、顔が泥だらけじゃないか」

 昨日、涙を隠すために床に顔を押し付けたせいだ。そんな洞察力も、この尊大なご主人様は思いもよらない。

「食事が終わったら風呂に入れてやる。飼い犬の面倒は飼い主の責任だからな」

 言い聞かせるように一方的に言ってから鎖を捨てて、ゴツイ鉄輪の首輪をつかみ、そのまま荷物のように千影を持って階段を上る。登り切れば今度も荷物のように投げ捨てられて鎖を持って引きずられる。千影が咳き込もうが気にしないで廊下を進んだ。

 長い廊下が終われば見ただけで重そうな鉄扉がそびえていた。鎖を捨て千影を無視して扉に触れると、大きな音を立てて鉄扉が開いた。そこは赤と黒を基準した。城の大広間が広がっていた。扉の前に人形の胸の中にあった顔が、悪趣味で派手なガウンを着た男の上にあった。

「・・・・はじめまして・・・・」

 痛む首を上げて千影はできるだけ丁寧に、そして挑発的な笑顔でいってやった。

 そいつが千影の飼い主だった。

 解説

 なんか仕事が暇だったのと(暇じゃないです)感想が嬉しかったので調子こいて2本だて、その5だというのに話がちっとも進んでない。他にも醜作さんの続きを書こうとして内容をすっかり忘れていて、自分で書いたかどうかも妖しいレベル・・・。今月中にはDDDに投稿したいです。

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