千影が見た風景 第2章 その6

「こちらこそ」

 千影は、悠然として踏ん反り返っている男に返事をしながら男の様子をつぶさに観察する。中背で体格は貧弱そうだ、豪華で装飾過剰の服でなんとか恰幅の良い格好を保っているに過ぎない。顔立ちは人形の胸と同じで顔立ちは悪くはないが感情を隠せない病的で薄っぺらな感じを改めて思った。

 ハエは千影の視線から外れて自ら鎖を掴んで屋敷の玄関へと足を進めた。部屋薄暗いと感じたのは大階段の裏で影になっていたからとわかった。足元は豪奢な深紅の絨毯が敷き詰められさっきまでの石床と比べれば格段の差があった。それどころか体重を感じさせないぐらいフカフカで気持ちがいいくらいだった。

 広い場所まで引きずられると中央玄関らしく、正面には大きな玄関扉、三、四階ぐらいまで拭きぬけた大広間で高い天井でもはっきりわかるぐらい巨大なシャンデリアが見え、絨毯が覆ってない場所は磨きぬかれた石床が敷いてあった。他にも高価で歴史的価値が高そうな調度品が敷き詰めるように飾り付けてある。そして、驚くほど静かで人の気配を感じられなかった。

 ハエは屋敷の華やかさを自慢するように立ち止まって千影から三歩下がった。紳士が女性を労わるつもりかもしれないが、実際は幼児が玩具を見せつける行為と精神性の上では大差がない。千影はあきれるように鼻で笑って広間をゆっくりと見まわした。

 耳が痛くなるぐらい静かだ。それに、やっぱり人の気配がない。

「・・・・随分と静かだね」

「なんと、このすばらしい調度品の数々に目を奪われず、静寂に気を奪われるとは、それほど姫君は私をお気にめさないと見える。ヤレヤレ・・」

 この異常な静けさの中でハエが絨毯の布に足が沈む音だけがして千影のそばにたった。鎖の先端を握って広間の右扉に歩き出した。首輪が食い込んで荷物のように引かれて移動させられる。抵抗しようもなく、とりあえず現状を受け入れた。なんとなく、屋敷の不気味な静けさに怖気ずいてるかもしれない。息を呑んで気を引き締めて顎をあけて屋敷の中を観察する。

 なにかしてなければ不安に負けそうだから見るだけは止めたりしたくなかった。

 右扉の奥は豪華な食堂だった。芸のない派手なシャンデリアに装飾品が並んだテーブル。繊細な飾りが浮くテーブルクロス、贅の限りをつくした派手なだけの食堂。統一感もない空間的な調和もない。一言で言えば悪趣味につきた。

 テーブルには煌びやかな椅子が一つ備え付けられ、椅子の足元には膝ぐらいまでのワッカつきの鉄柱が絨毯から生えていた。

 千影はそこまで引きずられて鉄柱に犬のようにつながれて腰掛けた悪趣味な屋敷の主人を見上げなければならなかった。

 部屋の壁には家畜を躾るような調教具や拘束具、それに千影が理解の外にある淫具などが吊るされていた。食堂には不釣合いの数々の道具は、返ってこの悪趣味な部屋に違和感なく存在していた。

「興味がありそうだな」

 目ざとく飼い犬の視線を追って楽しそうに言った。たしかに、あの道具に目を奪われたのは事実だった。

「この調度品には興味がなくても、アレには興味があるか・・・淫乱なメスガキが・・」

「なッ・・」

 思いがけない侮辱を受けて千影はクチビルを噛んで下を向きながら羞恥と屈辱で頬を染めた。

 そして、始めて自分からハエの視線をよけたことを犬にされた少女は思い至らなかった。

解説

 次でやっとエロシーンです。お待たせしました。

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