千影が見た風景 第2章 その7
ハエは優雅で軽やかに食堂の一番奥のテーブルに座る。その後にかがんで千影の鎖を鉄柱につないだ。
「さて朝食にしようか」
指を鳴らすと、ワラワラと顔の無いメイド服を着たマネキンが食器を並べ、コックの服装をしたやっぱりマネキンが鍋やボールにおいしそうな匂いを満載した料理を運んできた。千影は喉をならして空腹を覚えた。考えてみれば丸二日は何も食べていないのを思い出した。
かといって、この男がテーブルにつくことを許すとも思えないし、それ以前にもはや座ることなど出来やしない身体になっていた。自分の手で食事を取ることも出来ない。千影は自分がいつまで人間らしい誇りを持てるかいまさら不安になっていた。
「さてさて、きみのような娘にはまず、食事作法から教えねばなるまい。すべての文明の基本は食べることだよ。偉大な飼い主は犬にも文明的価値観を教えてやるものなのだよ」
得意そうに、まるで本の受け売りのように一気にしゃべりつづけた。もっとも千影は何の感銘を受けるわけが無い。ただ視線を反らして床に這いつくばるばかりだ。
ハエはヤレヤレという感じで並べられた料理に手をつけた。内心、千影が自分を睨む(ハエにとってはそうとしか言えない)ような視線が無くなり、いつもの牝犬のように不安と恐怖で怯え始めているのがうれしくてたまらなかった。
飼い主だけが食事をしているとメイド型のマネキンが犬の餌皿に並々とスープをいれて千影のそばに置いた。どうやら食べろってことらしい。肘から下が鉄の棒になっている以上、直接餌皿に顔をいれて食べなければならない。そんな屈辱的な真似は出来ない。
「そうだろうな・・・」
ハエは立ちあがって壁にかけてあるいくつかの道具を見て棒状の鞭を手に取った。円筒の鞭は細くしなやかで、先端は丸い板がついていた。軽く振っただけで空気を裂く音とがして、ゆらゆらと先端が震えている。
鞭を左右の手で見せつけるように持ち替えながらハエは口にする。
「意地かプライドか自棄かは知らんが、君は死ぬ訳にはいかないのだろう。長生きの秘訣は従順な犬となって、犬芸の一つでも覚えて主人を楽しませることだろう。わたしは、一晩じっくり考えたよ。やはり専門化に頼んでじっくりと牝犬としての自覚を持ってもらうべきだと。私自身の手で調教をしたいところだが、正直、今すぐ君を殺したいところなんだよ。なにせ君を買う条件に『殺さないこと』というのが入っていてね。そうもいかんのだよ」
「遠慮するな・・・どのみち長生きをする気は無いよ」
「はは・・・」
怒気を隠していない、乾いた笑い。
身体全体が浮かび上がる衝撃。ハエは千影の顎を蹴り上げた。鎖で鉄柱につながれているため、少し浮き上がったところで床に叩きつけられた。
痛みを押さえようにも手が無い。そこに防ぐことも出来ない四肢を欠如した少女に蹴りが何十発も叩き込まれた。
千影は最初の三発目まで数えられたが意識を失った。ハエの蹴りはその後、十数分にも及んだ。
息をあらげ乱暴に食堂を出ていく主人。彼に無抵抗の人間を嬲る後ろ得た差は一ミリも無かった。
千影は肋骨を四本折って、右肩の関節が外れていた。打撲は数えきれないほど、白かった肌は斑に赤紫に張れあがっていた。
美しかった顔が張れあがり、口の中で葉がカリカリと音がしていた。
千影の安息は気絶した深い闇の意識の中で眠ることだけだった。
解説
次でやっとエロシーンです。お待たせしました。っていったのに・・・また引いちゃった。
理由はですね。ハエというおいしいキャラに調教なんてことをさせたくないんですよ。計算された飴と鞭と悦楽と落としていくさま・・。ハエは、より屈辱を増すための知性薄弱、富と無抵抗者への一方的な懲罰等を特化した身勝手なキャラなんです。正直、こいつ主体に長編を書いても落とす瞬間って人格を崩壊させた後なんすよね。それじゃ駄目だ。未発表ですが1章の伏線がいかされない。
そこで書き溜めておいた分を全部没にして、女調教師(また登場人物増やす)に登場して頂いて千影ちゃんに犬芸を仕込んでもらおうと愚考したわけです。
その為、今回は雑で展開に無理が生じています。もう少しハエ自身の手で調教して、千影に抵抗しまくってもらってからの方が展開としては面白いと思うのですが、管理人自身が早く賢い冷徹な女調教師を書きたいので無理を押し通してしまいました。
次こそ、エロエロで!